嶋田研究室で現在取り組んでいる研究課題は以下のとおりです。
重質油の需要が減少する一方で、化学品原料となる軽質炭化水素の需要は増大しています。そこで、重質油を分解して軽質油に転換する流動接触分解(Fluid Catalytic Cracking:FCC)プロセスの重要性が増しています。FCCプロセスは、ゼオライト触媒を用いて重質油を分解するプロセスであり、外部からのエネルギーや水素の導入が不要であるために、安価で効率的なプロセスとして知られています。しかし、重質油中に多く含まれる多環芳香族は安定性が高く、FCCプロセスでの分解は困難とされてきました。
我々は、FCCプロセスでの多環芳香族の分解を目指し、接触分解反応場で進行する水素移行反応に着目しました。水素移行反応は2分子間での水素の授受反応ですが、生成するガソリンのオクタン価を低下させる反応として従来の触媒設計では抑制されてきました。しかし、これまでの検討で、水素移行反応を促進することでFCCプロセス内でも多環芳香族の分解が可能であることが確かめられました。現在は、反応機構の詳細な解析や更なる分解促進に向けた触媒設計に取り組んでいます。また、水素移行反応活性が高い反応場でも生成ガソリンのオクタン価を低下させないための反応設計にも取り組んでいます。
参考文献
- I. Shimada, K. Takizawa, H. Fukunaga, N. Takahashi, T. Takatsuka, Fuel, 161, 207-214 (2015).
- I. Shimada, R. Imai, Y. Hayasaki, H. Fukunaga, N. Takahashi, T. Takatsuka, Catalysts, 5(2), 703-717 (2015).
- I. Shimada, C. Uno, Y. Watanabe, T. Takatsuka, Fuel Process. Technol., 232, 107267 (2022).
バイオマス資源は再生可能なエネルギー源や炭素資源として期待されており、その有効活用は持続可能社会構築の鍵を握る重要な要素技術の一つです。我々はバイオマス資源を原料に用いた輸送用燃料や化学品原料の製造プロセスの開発に取り組んでいます。その中で、石油精製技術の一つである流動接触分解プロセスに着目しました。
これまでの研究の成果から、接触分解反応を用いることで植物油から軽質炭化水素への転換を安価に達成できる可能性が見えてきました。特に、水素移行反応を有効に活用することで、非水素雰囲気下でも炭素損失を抑制した効率的な脱酸素を進めることに成功しています。現在は反応機構の詳細な解明や更なる高活性化に向けた触媒設計に取り組んでいます。
さらに、植物油の接触分解反応の知見を応用し、豊富な資源量を誇る木質バイオマスを原料に用いた炭化水素燃料合成にも取り組んでいます。
参考文献
- I. Shimada, S. Kato, N. Hirazawa, Y. Nakamura, H. Ohta, K. Suzuki, T. Takatsuka, Ind. Eng. Chem. Res., 56(1), 75-86 (2017).
- I. Shimada, Y. Nakamura, S. Kato, R. Mori, H. Ohta, K. Suzuki, T. Takatsuka, Biomass Bioenergy, 112, 138-143 (2018).
- I. Shimada, Y. Nakamura, H. Ohta, K. Suzuki, T. Takatsuka, J. Chem. Eng. Jpn., 51(9), 778-785 (2018).
- I. Shimada, Y. Kobayashi, H. Ohta, K. Suzuki, T. Takatsuka, J. Jpn. Petrol. Inst., 61(5), 302-310 (2018).
- I. Shimada, T. Matsumoto, H. Ohta, T. Takatsuka, J. Jpn. Petrol. Inst., 63(1), 10-19 (2020).
重質油やバイオマス原料、廃プラスチックなどの接触分解反応では原料組成や反応機構が極めて複雑になります。我々は機械学習を用いることで、複雑な反応の生成物組成予測と重要な反応因子の抽出に取り組んでいます。
一般に、機械学習には予測精度と解釈可能性の間にトレードオフがあることが知られています。高い精度で予測ができる非線形モデルはブラックボックスになりがちで、そこからは重要な反応因子の抽出が困難です。この問題に対し、我々は機械学習と物理化学の融合によって解決を図ります。具体的には、解釈可能性の高い線形回帰モデルに対し、物理化学に基づく特徴量エンジニアリングを組み合わせることで高い予測精度が得られることを明らかにしました。さらに、線形回帰の標準回帰係数から重要な反応因子が抽出できる可能性を確かめました。
このように、機械学習を利用することで反応工学の新たな進展に寄与することを目指して研究に取り組んでいます。
参考文献
- I. Shimada, M. Osada, H. Fukunaga, M. Koyama, Ind. Eng. Chem. Res., 62(49), 21087-21099 (2023).